二次創作の更新履歴など
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「金子ですが。」門に取り付けられたインターフォからの「どちら様ですか」の問いに紹介所からいわれた通りまるで知人でもあるかのように自分の姓だけを応えると門の鍵がはずされる音がして「お入りください」と自分と同年代とおもわれる女性の声がした。紹介所で渡された住所はここに間違いない。家というより屋敷といった方がよいのかもしれない。今回も条件が住み込みと精神科経験だったから半月前までの契約先と同じように認知症のお年寄りの世話なのだろうか。紹介所では自分も含めて精神科経験のある看護師が三人ほど空いていたが「産科または小児科経験あればなお良し」の条件にあうのが自分一人だったためこの仕事が回ってきたけれどこの家の大きさだと三世代同居で祖父母が認知症で孫世代が子育て中というのがありそうなパターンだろうか。今時珍しい木枠のガラス引き戸の玄関の向こうに映るもう臨月ではないかとおもわれるシルエットをみながらおもった。
「お久しぶりね、金子さん」引き戸を開けた女性をみて驚いたのも一瞬で中学時代の同級生の面影をみて懐かしい気分になった。「本当に久しぶりね藤崎さん」客間であろう部屋に通され、出された冷えた麦茶を飲みながら金子は最後に聞いた中学時代の同級生藤崎あかりの消息を思い出した。「ここ、塔矢さんと言うお宅よね。藤崎さんは進藤と結婚したんじゃないの、この家のお嫁さんなの。」「そうよ、ここは塔矢家よ。この子の父親はヒカルだし、私はヒカルと一緒に暮らしてはいるわ。でも、ヒカルの奥さんは私じゃないの。」そのとき玄関の方でやはり聞き覚えのある声で「ただいま」と声がした。「あかりぃ」ちょっと待っててねというと藤崎さんは部屋を出て行った。切れ切れに聞こえるのは藤崎さんと若い男の声ともう一人若い女性の声だった。 「ごめんなさいね、お待たせして。ヒカルが帰ってきたものだから。」藤崎さんはそういうとそういえばこの前久しぶりに筒井に会ったのだと話し始め、ほかにも共通の知人や同級生の消息を交わした。あかりが触れようとしないのは自分と進藤のこととして金子と三谷のことだった。 襖が少しだけ開いて藤崎さんを呼ぶ声が聞こえた。「ごめんなさいね、何度も中座して。」何分かして戻ってきた藤崎さんは一人ではなく進藤とすでに六ヶ月ぐらいだろうかやはり妊娠している同年代の女性と一緒だった。「アキラさん、お風呂入ってさっぱりしたわね。」「うん」「お客さんが見えているからご挨拶してね。ご挨拶したらヒカルと一緒にお昼とってね。」「おなかすいてない。」「だめよ、アキラさんだけじゃなくて赤ちゃんの分も食べなきゃね。」「進藤の赤ちゃん。」「そうよ、ヒカルの赤ちゃんね。」「あかりさんのおなかの赤ちゃんも進藤の赤ちゃん。」「そうよ、この子もヒカルの赤ちゃんよ。」 その女性を真ん中に左右に藤崎さんと進藤が並んだ。「ヒカルは紹介しなくてもいいわよね。彼女がね塔矢アキラ。ヒカルの奥さん。アキラさん、こちらは金子さん。私が入院している間、アキラさんと一緒にいてくれる人よ。ご挨拶して」「初めまして、塔矢アキラです。よろしくお願いします。」「金子さんはね、ヒカルと私の中学の時の同級生でやっぱり囲碁部だったのよ。ね、ヒカル。あらヒカルがいないわね。」進藤がいないのがわかったとたん塔矢さんは妊婦とは思えない素早さで立ち上がり「進藤どこへ行った。」と叫びながら部屋を出て行こうとした。すると進藤が部屋に戻ってきて「ごめん、ちょっとトイレに行ってた。」すると塔矢さんは PR
先週から住み込みで働き始めた家で与えられたのは
どこから話せばいいんだろうな。と進藤は話し始めた。 あかりがさ、好きになるのが女ばっかだっていうのはうーんそうだな、気がついたのは4年か5年の頃?小学校のだよ。あいつの初恋はね、幼稚園の時のよしこ先生。そのあともゆきちゃんだとかせっちゃん、木田とか水谷とかそうだよ、木田も水谷も中三の時同じクラスだった木田つぐみと水谷希恵、そうああいいうかわいいって言うより綺麗って感じの奴。だから、初めて塔矢みたとき思ったのが「ああこいつ、あかりの好みだ」って。あと思ったのはアイツ、俺の知り合いであかりに会わせることができないまんまいなくなった奴なんだけど、あかりに会わせていたらアイツ男だけどあかりはあいつを好きになったかもしれない。アイツはあかりのこと気に入ってたけど。 俺はさ、どう言えばいいんだろ。そういうのが壊れてるっていいうのか、誰かに恋をするっていうのがないって言うか。うん、ずっと一緒にいてほしいって奴はいない。一緒にいるのが当たりまえで、でもいなくなったヤツならいる。そいつしかいらない。でもそいつはもういないんだ。うん、からだはさ、されれば反応しちゃうけどさ。だから、あかりにも塔矢にもさ子どもできちゃったんだけど。恋とかじゃないけどあかりも塔矢も俺の前からいなくなるのはやだっておもう。 あかりが女しか好きになんないってのも、俺が誰も好きになんないってのもさあかりの親も俺の親も、ああ、あとあかりのねぇちゃんも知ってる。でもさ、おれとあかりは一緒にいるのが当たり前っていうのもなんかある。むかしさ、あかりが高校の時、男を知ってる知らないってのがさ、あいつも好きになるのは女ばっかだけど別に男が嫌いって訳じゃないし、人並みに好奇心はあるし、でも下手なヤツに、上手い下手ってことじゃなくてそういうことするんならそれなりにおつきあいみたいなことしなきゃならないし、あかりにしてみれば男と付き合うのはやだし、後腐れなく別れられないと困るし、でオレに白羽の矢を立てたの。オレなら別に別れる必要もないし、オレの方も周りの奴らがお節介なことしてくるのがやで渡りに船だったの。でも、失敗しちゃってさ。あかり流産しちゃって。で、俺たちがこんなだってばれるよりはって親たちが婚約決めた。あかりが学校でたら、高校か大学か専門学校かわかんないけどとにかく学生じゃなくなったら正式にって。 オレと塔矢は初めてあったのは小六の時だけどまぁそれからいろいろあって話とかするようになったのは中三の時。それからは時間があれば打つようになった。あいつはすごい世界が狭いヤツで、ほんとに碁だけ。オレもそういうとこあるけど。一番身近なのが両親とオレ、ちょっと離れて塔矢門下の緒方先生とか芦原さんあと芦原さんの奥さんとあかりもいまここかな。その次が塔矢ちの碁会所の常連さんや桑原のじーちゃんや倉田さん、高永夏とか強い人、その次が棋院の事務の人とか金子もたぶんここ。これ以外の人って区別ついてないんじゃないかな。 あかりはさ、塔矢のこと知ってからずーっと塔矢、塔矢って感じでさ。高校の頃からオレのこと口実に塔矢ちの碁会所通うようになってさ。あかりが塔矢・塔矢ってうるさいからあかりんちのおばさんとかあさんが碁会所に挨拶だとかいって菓子折持ってきたことがあったけどオレはいなかったけど塔矢はいて、かあさんたちもあかりが塔矢のこというとそうよねぇって。そんな感じだった。 あかりが大学入ったころかな碁会所の受付のおねえさんが子どもできてフルタイムで働けなくなったんであかりが夜バイトするようになったんだ。あかりにしてみれば塔矢に会えるいいバイトだし、オレと塔矢にしても都合がよかったんだ。打ってても検討しても碁会所だと閉店時間があるし、場所うつすにしても夜にオレと塔矢だけだとやっぱりいろいろまずいけどあかりが一緒なら塔矢んちで徹夜でも大丈夫だし、メシはあかりが作ってくれるし。あかりが大学卒業したあと一応、結納とかしてさ正式な婚約ってしたけど周りに宣伝することでもないしって特に言わなかった。結婚は何年か先で感じであかりが大学行かなくなって昼間は花嫁修業って言うのか料理とかお茶とかお花とかあと、フィニッシングスクールとか習うようになったのが違うくらい。オレも塔矢もさ十七・八くらいからタイトル戦の挑戦者にはなるようになっていたからさ、あかりもタイトルフォルダーの奥様になる勉強が必要だろうって。実際オレが初めてタイトルとったのはあかりが大学卒業した年の七月だし。 塔矢がオレを好きってのはさ、オレだけじゃなくて碁会所の人も棋院の人も気がついてた。塔矢本人はさ碁バカだからライバル心と恋の区別ついてなかったけど。周りからは注意されてた。オレについちゃ塔矢よりあかりに優先権があるんだって。でもさ、あかりにしてみれば塔矢が最優先だし、オレにしてもあかりと塔矢だったら碁のことだったら塔矢が優先だったから問題なかったんだけどな。 そうやって、俺たち三人には居心地のいい時間だったんだけど親たちの方が焦れて、去年の正月に言われたんだ、あかりの二十七の誕生日に結婚しろって。何度か家を出ようとしたけどそんな時間もとれないって言うかそれよりは塔矢と打ってる方がいいというかそんなこんなでオレは二十六にあっても親と一緒だったんだ。五ヶ月しかないけど家を探したりの準備は親たちの方でするからって。で、正月のばたばたが収まった頃、うん一月の終わりに塔矢には言ったんだ五月に結婚するって。タイミングが悪かったのはその翌日、塔矢先生夫婦が上海で交通事故にあって亡くなった。塔矢と一番弟子の緒方先生が上海まで遺体引き取りに行ってこの家で通夜と葬式だったんだけど。塔矢が壊れちゃったんだ。さっき言っただろ、塔矢にとって一番近いのがオレと両親なのに、全部いっぺんになくして。通夜はさ、塔矢と塔矢門下の緒方先生や芦原さんと芦原さんのおくさん、それと塔矢先生の同期だった森下先生だけでオレは帰ったんだけど。みんな疲れててうとうとしてたらしいんだけど突然塔矢がオレがいないって言い出して家中探しはじめて、見つからないからって外に行こうとしたのを引き留めたけどその間もオレのこと呼び続けてたって。夜中の三時だったけどオレ呼び出されてこの家にきたら塔矢に抱きつかれてそれ以来、アレとか対局の時とかほかに注意が向いているときは大丈夫だけどオレが自分の見える範囲にいないって気づくとパニック状態になる。 葬式のあと塔矢をどうするか問題になって、こんな状態は二・三日で直ると思ってたから芦原さん夫婦とオレとあかりがそれまでこの家に泊まることになった。けど、初七日を過ぎても一ヶ月たってもだめだった。やばかったのが塔矢の親戚にこのことがばれることだった。塔矢先生も奥さんも一人っ子同士のはとこ同士の結婚だったんだって。で先生たちには従兄弟もいなくて一番近いのが先生と奥さんのはとこっていうおっさん。葬式の時から仕切りたがって形見分けとか言って奥さんの宝石とか勝手に持ち出そうとしたりして大変だったんだ。とにかく塔矢を誰かと結婚させて、結婚したあとこういう状態になりましたって言えば塔矢の旦那さんを後見人にできるけど。ふつうはさ、塔矢くらいのお嬢様なら二十六にもなればさ、親とか周りが結婚のお膳立てして、塔矢もさ、碁バカだからそんなもんかって何にも考えずに結婚してたと思うよ。でもさ、塔矢先生たちも塔矢がオレのこと好きだって知ってて、でもあかりのことがあるからオレには何にも言えなくて。あきらめてたんだって緒方先生に言われた。 四十九日の時に森下先生・緒方先生・芦原さん夫婦とオレで塔矢をどうしようって話になって。塔矢もいたけど何の話をしてるのかはわかってなかった。緒方先生なら塔矢先生の一番弟子だしちょうどよかったんだ。でもさ、問題があって、もし、塔矢になんかあったら塔矢家の財産が例のおっさんとこ行くから塔矢に子供を産ませられる人ってのが条件だったんだけど緒方先生、昔かかった病気のせいでだめなんだって。それに、緒方先生もあかりと同じって言うか恋人男の人だし。緒方先生の恋人って言うのも候補者だったんだ。森下門下だけど穏やかで優しい人だし。これも緒方先生が自分以外さわらせないって言い出して駄目で。もう一つ問題があって、オレがいなきゃ塔矢がパニック起こすから塔矢と塔矢の旦那がそういうことしてるときオレも同じ部屋にいなきゃなんないってことで、緒方先生がオレならあかりのことさえなきゃ問題ないのにって言い出してさ。あかりはさ、オレと塔矢が結婚しても怒らないってオレは知ってるけど、あかりと塔矢を会えなくしたらすげぇ怒るだろうけど。他の人には言えないし、あかりに来てもらうってオレあかりのことを呼び出したんだ。オレよりあかりの方がこういうことに頭回るし。 あかりが来てさ、話聞いて出してきた提案がオレと塔矢を結婚させる。で、自分を同居させろって。自分とオレは物心ついたときから一緒にいて離れるなんて考えられない。塔矢がこんな状態なんだから塔矢とオレが結婚する、子供を作るって言うのは仕方ないとは思うけど自分もオレとは離れられないし、子どももほしい。誰かしら塔矢の世話をする人間が必要なんだから自分でもいいじゃないってさ。 市河さんが、芦原さんの奥さんで碁会所の昼間の受付の人ね、あかりを説得しようとしてさ、親のこと持ち出したんだ。まぁそれがあかりの作戦だったんだけど。あかりの親はさ、あかりが塔矢・塔矢って言ってたの知ってるから同居の目的がオレじゃなくて塔矢だってわかってるし、あきらめの境地ってやつ。あかりのねぇちゃんは三十だけどオレと同じで色恋沙汰に興味なくて一人暮らししてるけどたぶんずっと一人のままだろうって感じ。だからせめてもう片方だけでも戸籍はどうでもいいからっておもってたんじゃないのかな。あかりに呼び出されて自分たちはかまいませんって断言してさ。うちの親も来てさ、あかりがそれでいいって言うならかまわないて言って。その日のうちに役所に届けだして。 碁の方もさ最初は塔矢を引退させようと思ったんだよ。塔矢は名人と十段と女流のタイトル全部持っていてすごい大事になるんで引退は駄目だって。一度、対局中に俺がトイレ行ってる間に塔矢が発作起こして以来、オレと塔矢の対局は大部屋じゃなくて別室になったけど。塔矢の碁がさ、今までは秀才の力碁だったのが発想が柔らかくなったというか、倉田さん曰くたがが外れて天才の碁になったって。 金子のことはさ、あかりや筒井さんがずっと探してたんだ。三谷の事故のあと子ども産んだって言うのはさ親がどこかで聞いてきたけどそのあと引っ越しちゃっただろ、どこに行ったんだって。そしたらこの前、ええとそう高瀬さんだ、高瀬さんの葬式で見かけてうん、むかし指導碁に通ってたんだ、まだ高瀬さんがしゃきっとしてた頃。で、紹介所教えてもらって。 そのとき、「進藤、進藤」と彼の妻の声が聞こえた。「大丈夫だ、塔矢すぐ行く」その声が聞こえたのか廊下を挟んだ居間の襖が開いて彼の妻が姿を現した。全裸ですでに六ヶ月という腹はせり出している。乳首は吸われたのか弄くられたのか内出血しているのではないかと思われるくらい赤黒くなっている。普段は夫の愛人により大切に手入れされている乳房まで伸びた日本人形のような髪だけではなく全身、とくに陰毛や内股から足にかけては紅い油のようなものがしたたっていて床を汚している。居間の畳にもシミができているに違いない。元は陶器のように白かった肌は胸から下腹部、背中から臀部にかけて元の色がわかるところが少ないくらい唇の形をした濃淡のある内出血で染められていた。「金子すまないけどあかりをみてきてくれないか。大丈夫そうだったら風呂場連れてきてくれ。この調子じゃあかりのほうも相当汚れてそうだ。」そういうと進藤は彼の妻をお姫様だっこをして浴室へ向かった。そうしなければ床はさらに汚れていたかもしれない。 寝室に行くとすでに臨月の彼女は放心状態だった。「藤崎さん、藤崎さん」耳元で声をかけるとほわっとため息をつき意識を取り戻したようだった。「金子さん?」「お風呂へ行った方がいいわよ。いま、進藤が塔矢さんを入れてるわ。」「ヒカルがアキラさんをですって。」「一人で行ける?」「大丈夫よ」「じゃぁ、その間にここを片付けておくわ。換えのシーツはどこにあるの。」「一番奥のヒカルのベッドの下の引き出しに」そういうと藤崎さんは自分の回りをみて惨状に気がついたようだった。「自分でするわ」「夕飯の時にも言ったけれど、あなたはもういつ陣痛が起きてもおかしくないのよ。もう少しおとなしくしてて。塔矢さんだって安定期に入ったと言っても何をしてもよいわけじゃないのよ。早産のリスクを甘く見ないで。」「ごめんなさい。今日で最後にしようと思って名残惜しくないようにって思ったら」「エスカレートしていったね。とりあえずはお風呂に行って。できれば自分のだけじゃなく二人の着替えも持って行ってくれる。ちょっと待って、そのままじゃ床が汚れるわ」ベッド脇のワゴンにあったタオルで脚をさっと拭き取った。 相場の三倍の給与に同情からかと聞いたら藤崎さんに妻妾同居の口止め料と妊婦二人と子ども二人の世話を頼むのよ。金子さんじゃなかったとしても同じだけ払うわ。といわれた。二十三歳の時七ヶ月の早産で産んだ息子は妊娠初期に気がつかずに受けた交通事故の検査のせいか、早産だからなのかひどく体が弱く東京では育てられなくて自分の両親が長野で育てている。十五歳までは医療費がかからないとはいえ十六からはどのくらいかかるようになるかわからない。子どもを亡くした三谷の両親の面倒も息子にとっては祖父母なのだからできればみてやりたい。だからここを紹介されたときは給与に惹かれたのは嘘ではないがこういった後始末の手間を考えると収支はとんとんかもしれない。 |
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